昨日発表された第144回芥川賞・直木賞。両賞そろってのダブル受賞は7年ぶりだそうで、朝からニュースでも華々しく報道されています。
受賞者と受賞作は以下の通り。
- 朝吹真理子『きことわ』(新潮9月号)ー芥川賞
- 西村賢太『苦役列車』(新潮12月号)ー芥川賞
- 道尾秀介『月と蟹』(文藝春秋)ー直木賞
- 木内昇『漂砂のうたう』(集英社)ー直木賞
彼らの会見が行われ、その一問一答がすでに出ていたのでまとめてみました。それぞれの受賞者の素顔が垣間見れます。各ニュースにほんの一部引用されているものを見るよりずっと面白いです。
まずは現役の慶大院生ということで最もニュースで取り上げられていた朝吹氏の一問一答です。作品は、二人の女性の過去・現在・夢・現実をうまく時間軸を操られて作られた作品だそう。
NHK「かぶん」ブログ:NHK | 取材エピソード | 芥川賞・朝吹真理子さん受賞会見ほぼ全文です
作品の中で書かれてあることはほとんどがすべてフィクションです。うそによって、ウソを完遂するということを1番の目的にしたのですべてフィクションになります。 ただ、小さい頃に何度か葉山にいったことはあります。 それは、実際の記憶にある土地を出すことで、より高い形のフィクションにしたかたので、そのための、跳び箱で言うならジャンプ台みたいな形として自分自身のパーソナルなものをつかってよりおもしろく、より完成度の高いウソに至るまでの、ジャンプ台の形として実際に訪れ事のある葉山という土地を選びましたけど、小説の中で、そこで起こっていること小説の中のことはすべてフィクションです
そしてもう一人の芥川賞受賞者西村氏の一問一答。作品は、破天荒な生き方をしてきた人の私小説。19歳の日雇い労働をしている少年の貧しい暮らし、そしてトラブル…といった作品だそう。
NHK「かぶん」ブログ:NHK | 取材エピソード | 芥川賞・西村賢太さん受賞会見ほぼ全文です
もともと私小説しか興味がない。小説を読んだのが私小説だったもんですから、当然、というか自然に、それ以外に興味が向かないんです。 僕の場合は、ずっとそれに救われてきたので。 名前をあげるのは、あれですけど、藤澤清造にしろ、田中英光にしろ、本当に救われてきたんで、その、自分で書くとなったら、その形式というか、方法しかとれないです。
直木賞を受賞した道尾氏はこれが5回目のノミネート。作品は小学校5年生の子供二人の視点で書かれていて、やどかりを神様としてみたてて儀式を行う、というお話だそう。
NHK「かぶん」ブログ:NHK | 取材エピソード | 直木賞・道尾秀介さん受賞会見ほぼ全文です
心の揺らぎを、子供の、少年の心の揺らぎを書きたいんですね。それを書くときに例えば3年生、2年生だと何か不幸・不運と対峙したときに親を頼ってしまう。子供が大人を頼ってしまうんですね。で、もう少し5年生より上の、小学校6年生とか中学1年生くらになると、戦う術を持っているんですね。逃避の手段とかゲームに没頭してみようとか、ていう手段を持っているですけど、5年生とか4年生そのくらいって、まるっきり丸腰の状態なので、子供たちが不幸とか不運とかと対峙したときに、どうやって戦うんだろうということに、すごく興味があるんですね。「月と蟹」はまさにそこを書きたくて書いた小説ですね。
そして最後は直木賞を同時受賞した木内氏。明治10年、東京の遊郭を舞台に、武家出身の定九郎という男が出自を隠し、花魁の世話などをして働いている男を主人公に描いた作品です。個人的にはこれが非常に面白そうで気になります。
直木賞に決まった木内昇さん「本当は沢村賞が欲しかった」 ― スポニチ Sponichi Annex 社会
「遊郭を一歩出たらさげすまれる、花魁を立てなければいけない立場の男たちは、どこに沽券を持っていたのかが気になって、材に選びました」
NHK「かぶん」ブログ:NHK | 取材エピソード | 直木賞・木内昇さん受賞会見ほぼ全文です
問)作品について書きすぎないというのは
木内さん) そうですね、書きすぎないというか読んで下さる読者の方に自由に遊ばせる、楽しんでもらう余白は常に作りたいとおもう。全部いいきってしまうとそこで終わってしまう、それよりも本を閉じても物語と自分の人生が並走して自分の人生があるような感覚を持ってほしいと思っています。
私の大好きな小説家宮部みゆき氏が、直木賞の選考委員だったのですが、会見でこの作品を絶賛していました。
NHK「かぶん」ブログ:NHK | 取材エピソード | 直木賞選考委員・宮部みゆきさん 記者会見ほぼ全文です
「漂砂のうたう」は最初の投票でバツが亡かった唯一の作品です。 最初からハードルが高い世界に挑んでいる。明治10年、しかも遊里の世界である。 2重3重に難しいことを設定して、それを相当たくさんの資料を読み、ご自身の中で消化して、資料に振り回されなかったことがまずすばらしい。
作者の名前が中性的なので、男性なのか女性なのか分からなかったのですが、途中から女性作家だと分かった。なぜなら登場する男性たちに色気がある。 遊里の話でありながら、男性たちに色気がある。これも手柄である。 シンプル、かつ非常に的確、言葉の取捨選択が正しい、実力のある人で、道尾さんほど文体はかたまっていないが、固まっていないところがこれから大いに延びる人である。
時代小説ってはまるとすごく面白いんですよね。これはちょっと読んでみようと思っています。
それにしても、NHKの科学文化部(かぶん)すごいなー、と感心。一問一答をすべて脚色することなく載せていたのはここだけ。こういうのが読みたいんですよね。NHK科学文化部 (nhk_kabun) on Twitterもあります。
芥川賞・直木賞受賞作ともに発売されています。実店舗では品切れのところもあると思うので入手はお早めに。