いくつかの詩が気に入ったので残しておく。
一つ目。大野直子さんの詩集「寡黙な家 ヒグレテタドルハ」より「味噌汁」。
味噌汁をおいしくするコツは
おたまにひとすくい
夕焼けをいれること
味噌の雲がもくもく湧いて
ネギの葦原が波立って
シジミが青いため息をつく
お鍋はたちまちシジミの棲んでいた
夕暮れの汽水湖
仕上げに
今日いちにちの苦笑いを押し込めて、蓋
へへへへへ と 立ちのぼる
湯気といっしょによそいます
もう一つ。茨木のり子「汲む」より。
大人になってもどぎまぎしたっていいんだな
ぎこちない挨拶 醜く赤くなる
失語症 なめらかでないしぐさ
子供の悪態にさえ傷ついてしまう
頼りない生牡蠣のような感受性
それらを鍛える必要は少しもなかったのだな
年老いても咲きたての薔薇 柔らかく
外にむかってひらかれるのこそ難しい
あらゆる仕事
すべてのいい仕事の核には
震える弱いアンテナが隠されている きっと……
暮らしのヒント集から。
さみしさや切なさはいいものです。それは向き合ったり、たたかうものではなく、抱きしめてあげましょう。
八木重吉「果物」より。
秋になると
果物はなにもかも忘れてしまって
うっとりと実ってゆくらしい
「汲む」がいいなあ、
と思っていたら、
「果物」の
“なにもかも忘れてしまってうっとりと実ってゆく”
に、やられました。
うっとりと実る…いいですね。